カエルの歌

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help RSS 随筆<赤い狐>

<<   作成日時 : 2011/12/16 09:25   >>

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          赤い狐


 生まれたときからずっと一緒に暮らしている姉は、年が明けるとすぐに、米寿を迎える。野良にこそ出られなくなったものの、洗濯や掃除など簡単な家事はしてくれる。口もまだまだ達者。話すのは、たいてい昔のことで、私が知らない遠い昔の話を千遍返し聞かせてくれる。
 ところが、3歳の頃のことは匂いも色も鮮明に覚えているのに、現在のことになると、すぐに忘れる。遡る記憶が新しければ新しいほど、頭に留まっていないものらしい。風呂の水は出しっぱなし、ろうそくの火はつけっぱなし、そんなことが頻繁に起こる。祖母は80歳を過ぎてから、母も90歳を迎える頃から、呆けの症状が出始めたというから、姉に物忘れが出てきたとしても不思議ではないのだけれど。

 昨夜、晩御飯を終えて、二人でストーブに当たっていると、その姉が突然妙なことを言い出した。
 「狐がおる。」という。この辺には、時々狸が顔を出すことはあっても、狐がいるはずはない。
 「どこに?」私が尋ねると、
 「そこよ。」と、テーブルをあごでしゃくって言った。
 「ほら、そこの皿の上よ。」
 テーブルの上には、食べたばかりの空の皿が乗っているだけ。
 「いよいよ、来るものが来たか?」
 私は、内心そう思った。
 姉は、人の心配をよそに、何食わぬ顔で、また言った。
 「赤い狐がおるじゃろ?おまえにゃ見えんと?」
 そこまで具体的に言うところをみると、間違いなく幻覚を見ているとしか思えない。
 私の不安は、確信に変わっていった。
 「狐を食わんか。ほら。」そう言って、姉は私の目の前に小皿を差し出した。
 見ると、白い皿の上に、にんじんの切れ端がへばりついているのが見えた。よくよく顔を近づけて見ると、小さなイリコの目玉が二つ、薄くスライスされた人参の上に並んでいる。それが狐の顔に見えたとき、私はようやく姉にはめられた事を知った。先程からしきりに爪楊枝で皿を突いていたのは、狐の顔を描いていたのだ。
「まんまと騙したね。」と言うと
「騙したりしちょらんど。嘘はなーんも言うちょらんじゃろ?」
 なるほど、確かに姉は本当のことしか口にはしていない。いっぱい食わされた私の完全な負けである。

 そんな訳で、我が家の年寄り狐はまだまだしたたかだ。油断してると、こっちが騙されて泡を食う。妹と張り合い、猫の虎ちゃんと追いかけごっこをしているうちは、当分の間、まだ呆ける心配はなさそうである。




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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
文を読まずにこの写真を見たときは
一瞬でキツネの貼り絵だと思いました。
落款も押してあるし・・・
それにしても人参作品とはお見事ですね。
お姉さんの感性見たりです。
今度は「緑のタヌキ」が見たいとお姉様に
お伝えください。(~_~;)
スリムー
2011/12/16 21:22
スリムーさん。こんばんわ。
やっぱりスリムーさんも狐に騙されたんですね。落款に見えたとは、細かいことによく気が付かれますね。なるほど考えもしませんでした。あの皿は、随分昔から使っているのですが、作者の名が描いているところを見ると、もしかしたら骨董品になるのかも。お宝探偵団に鑑定してもらおうかな。
人参とイリコの目玉だけで、よくあんなに狐の感じが出せてるなと、写真に撮って見てあらためて思いました。
姉は絵心があったのかもしれません。昔、大正時代の美人画を家の壁などに落書きしていましたから。
緑の狸を見たがっていたと、伝えておきます。ありがとうございました。
ビキタロウ
2011/12/17 19:51
お姉さん・・・。アーチストですね
さし絵テラ
2011/12/20 21:24

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