随筆<板橋の傍で>




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 庭先に架かっている橋がまだ板橋だった頃、そのたもとに大きな八重桜の樹が数本あった。桜は毎年のようにうす桃色の花房を沢山つけ、散るときには、吉野桜のように花びらを散らすのではなく、一房ごと潔くぽとりと落ちた。
 その頃には、決まって近くの石垣の穴から、冬眠から目覚めたばかりのアカテガニ達が顔をのぞかせ、花見をしていたものだった。
 ある日のこと、散り始めた桜の樹の下を、一匹の子猫が通りかかった。するとその時、風が俄かに吹いて、八重桜の花房をホトホトと落とした。そのうちの一つが、猫の頭をかすめて落ちたので、子猫はビクッとしたように立ち止まり、後ろを振り返った。誰かが、悪さをしたと思ったのだろう。
 すぐに又歩き始めると、今度は別の花房が、子猫の背中にまともに当たった。子猫はいきなり高く飛び上がり、体ごと後ろを振り返ると、あたりをキョロキョロ見回した。それから急に怖気づいたように、一目散に駆け出した。
 桜の樹の上で、花たちはいっせいに枝を揺すって笑い、地面に落ちた花房も、笑い転げるかのように、板橋の上で、コロコロと転がっていた。




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この記事へのコメント

さし絵テラ
2013年05月26日 10:06
ほのぼのとして、ショートの絵本になりそうですね。
ビキタロウ
2013年05月26日 20:04
テラさん、こんばんは。
言葉の要らないパントマイムというところでしょうか。
若い頃、庭先で目にした光景ですが、可笑しくて思わず独り笑いをしたのを覚えています。

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