童話<蓑虫の旅 その5>

          

蓑虫の旅<その5>



 ミノガは、蓑虫の雄で、今ではサナギから立派な蛾に変身していました。枯葉模様の美しい羽と、二本の立派な触角を持っていました。その姿は、蓑虫にはわかりませんでしたが、何故か急に胸がドキドキして、蓑の中が熱くなったような気がしました。
「急がないと、僕にはもう、時間がないんだ。」
 ミノガは元気のない声で続けました。
「僕たちの子供を残す最後の仕事が待っているんだ。わかるだろう?そのためには、どうしても君の助けが必要なんだ。」
 蓑虫はその一言で、全てを了解しました。ミノガがはるばる訪ねてきたそのわけも、その為に、自分がこれから何をしなければならなのかも。
「喜んで力になるわ。」
 蓑虫が心を込めてそう言うと、ミノガは優しく蓑虫を抱きました。そうして、ミノガによって、蓑虫のお腹にいた沢山の卵たちは、その晩、新しい命をもらいました。
 蓑虫は、かってないほどの力が、体中にみなぎるのを感じました。
「今日まで、私が長い旅をしてきたのは、あなたに出会うためだったのね。」
 蓑虫の呟きに、蓑の外からは、何の返事も返ってきませんでした。ミノガは、最後の仕事を終えると、一枚の枯葉が舞い落ちるように、真っ直ぐ地面に落ちていきました。


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 それから3週間の間、蓑虫はひたすらお腹の中の卵たちを温め続けました。
 やがて、幼虫になった蓑虫の子供たちは、1本の糸を吐きながら、蓑の下の穴から、次々と巣立っていきました。勿論、子供たちを運ぶのは、あの優しい春風でした。
 最後の1匹が巣立った後、蓑虫の体は、すっかり萎びて小さくなっていました。蓑の中はがらんと広くなり、蓑虫は、やがて子供たちが巣立っていった穴から、力なく落ちていきました。
 ミノガの亡き骸の傍に、蓑虫が静かに横たわるのを、春風が見ていました。



             おわり

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